1章
3章
マタイによる福音書2章
東方の博士の訪問(2:1-12) 第一章のイエスの系図と救い主誕生のエピローグに続き、ここでは幼子イエスの物語が書かれている。マタイは東方の博士たちが、ユダヤ人の新しい王としてイエスが生まれた時と場所を明らかにし、贈り物の奉献をしたこと。そしてそれはイエスがダビデ王の正当な子孫であることを非ユダヤ人によっても確認されたことであり、博士らが天体の運行によって導かれたことを歓喜をもって記録している。 1節 イエスがヘロデ王の代に、ユダヤのベツレヘムでお生れになったとき、見よ、東からきた博士たちがエルサレムに着いて言った、 このヘロデ王は、パレスチナとその周辺を治めたヘロデ王朝の紀元前400~45年在位のユダヤ王。為政者としては、国政の才能を持っていたが、性格が残忍な暴君で彼に殺された親族が多かった。 博士(ギリシャ語でマゴス)はもと中央アジアの民族宗教の祭司だが、古代の天文学者(占星術師)もマギーと呼ばれた。エジプト(創41:8)の知者、バビロニア(イザヤ44:25)の賢い者、ペルシャ(エス1:13)の知者もマギーである。ここではバビロンあたりの天文学者か。 2節 「ユダヤ人の王としてお生れになったかたは、どこにおられますか。わたしたちは東の方でその星を見たので、そのかたを拝みにきました」。 エレミヤ23:5の予言の成就 ヤコブから出る星がメシヤであるという予言が民数記にある。 「東の方でその星を見た」というのは博士たちがエルサレムよりも東の土地で星を見たことを示す。(KJV:we have seen his star in the east) 「わたしは彼を見る、しかし今ではない。 わたしは彼を望み見る、しかし近くではない。 ヤコブから一つの星が出、 イスラエルから一本のつえが起り、 モアブのこめかみと、 セツのすべての子らの脳天を撃つであろう。」(民数24:17) またイエスは自分を輝く明けの明星とも言っている。 「わたしイエスは、使をつかわして、諸教会のために、これらのことをあなたがたにあかしした。 わたしは、ダビデの若枝また子孫であり、輝く明けの明星である」(黙22:16) 3節 ヘロデ王はこのことを聞いて不安を感じた。エルサレムの人々もみな、同様であった。 ヘロデ王はイエスが王位を奪還するものと考え恐れた。また王の不安がエルサレムの都全体に広がり、無知な民衆は予言されたメシアの誕生の真理よりも流言に惑わされたのだった。 4節 そこで王は祭司長たちと民の律法学者たちとを全部集めて、キリストはどこに生れるのかと、彼らに問いただした。 「祭司長」は油をそそがれて神の召しを受け、神と人との間にたち人々のとりなしをする祭司の階級(祭司、祭司長、レビびと)の一つ。ユダヤが国家的独立を失ってからは、国民の間に大きな勢力を持った。 「すなわち、油注がれた祭司が...」(レビ4:3) 「律法学者」は律法の解釈を職業とし、ラビ(先生)と称せられていた。民に対し宗教上だけでなく民法刑法上の審判も行った。 5節 彼らは王に言った、「それはユダヤのベツレヘムです。預言者がこうしるしています、 律法の書(旧約聖書)のミカ書に従って答えた。 6節 『ユダの地、ベツレヘムよ、 おまえはユダの君たちの中で、 決して最も小さいものではない。 おまえの中からひとりの君が出て、わが民イスラエルの牧者となるであろう』」。 6節 「しかしベツレヘム・エフラタよ、 あなたはユダの氏族のうちで小さい者だが、 イスラエルを治める者があなたのうちから わたしのために出る。 その出るのは昔から、いにしえの日からである。」(ミカ5:2) ガリラヤの町ナザレのヨセフとマリヤが、住民登録のためベツレヘムに行った時イエスが生まれ、かつて「小さいもの」であったベツレヘムはメシヤの誕生によって大いなるものになった。 7節 そこで、ヘロデはひそかに博士たちを呼んで、星の現れた時について詳しく聞き、 律法の書に書かれた予言によると新しい王はベツレヘムて生まれたことになる。博士らの旅を導いた星の動きについて詳しく聞いた。 8節 彼らをベツレヘムにつかわして言った、「行って、その幼な子のことを詳しく調べ、見つかったらわたしに知らせてくれ。わたしも拝みに行くから」。 狡猾なヘロデ王はイエスを殺そうと画策し、博士たちにイエスがベツレヘムに生まれたことを教え、行って調べてくるように指示する。 9節 彼らは王の言うことを聞いて出かけると、見よ、彼らが東方で見た星が、彼らより先に進んで、幼な子のいる所まで行き、その上にとどまった。 同じ星がベツレヘムのイエスの元へ博士たちを先導した。 10節 彼らはその星を見て、非常な喜びにあふれた。 博士たちはその星をメシヤのしるしと思い非常な喜びに心が満たされた。 11節 そして、家にはいって、母マリヤのそばにいる幼な子に会い、ひれ伏して拝み、また、宝の箱をあけて、黄金・乳香・没薬などの贈り物をささげた。 ルカによる福音書によるとイエスが生まれたのは「飼い葉おけ」がある場所であったが、マリヤとヨセフはベツレヘムで住民登録を済ませた後エルサレムから遠く離れたナザレに帰らず、エルサレムの神殿でイエスを聖別するためにそのままベツレヘムに住居に見つけ、清めの40日間滞在し、その後もそこに住んでいたことだろう。エルサレムとベツレヘムの間は10kmほどしか離れていないが、博士たちがバビロンからエルサレムに来たとすると直線で800kmの荒野の旅になる。最初からエルサレムを目指した場合一ヶ月の旅だが、彼らの場合は星の位置だけを頼みとして王として生まれた方を探す旅であった。夜の間に星を観測し、昼間道のないところを進むとなるとかなり時間がかかったに違いない。16節でヘロデが博士たちが星を見て出発しベツレヘムに到着するまで2年と割り出していることから、博士たちの訪問をうけたイエスは1歳半から2歳位の幼子だったと考えられる。 王に捧げる贈り物 「多くのらくだ、ミデアンおよびエパの若きらくだは あなたをおおい、 シバの人々はみな黄金、乳香を携えてきて、 主の誉を宣べ伝える。」(イザヤ60:6) 黄金、香木の樹脂から採った香料である乳香 [1] 、高貴薬である没薬 [2] の三種の贈り物から、博士の人数が三人であるように推測されているが、聖書のどこにも人数が書かれていない。二人以上の複数であったことは間違いない。 12節 そして、夢でヘロデのところに帰るなとのみ告げを受けたので、他の道をとおって自分の国へ帰って行った。 博士たちはヘロデ王のところに戻らず、王の計画は未然に防がれた。 エジプトへの非難と帰還(2:13-23) ベツレヘムで生まれたイエスがガリラヤのナザレに住むようになったいきさつ。 13節 彼らが帰って行ったのち、見よ、主の使が夢でヨセフに現れて言った、「立って、幼な子とその母を連れて、エジプトに逃げなさい。そして、あなたに知らせるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが幼な子を捜し出して、殺そうとしている」。 貧しい小国イスラエルの人々は、飢饉や政情不安の際にエジプトに援助を求めることが多かった。 14節 そこで、ヨセフは立って、夜の間に幼な子とその母とを連れてエジプトへ行き、 エジプトでもシナイ半島ならベツレヘムからあまり遠くない。 15節 ヘロデが死ぬまでそこにとどまっていた。それは、主が預言者によって「エジプトからわが子を呼び出した」と言われたことが、成就するためである。 この時のヘロデ王は紀元4年に没しているので、イエスの家族のエジプト滞在は短かっただろう。 これによって「エジプトからわが子を呼び出した」と言われたことが成就した。 「わたしはイスラエルの幼い時、 これを愛した。 わたしはわが子をエジプトから呼び出した。」(ホセア11:1) 16節 さて、ヘロデは博士たちにだまされたと知って、非常に立腹した。そして人々をつかわし、博士たちから確かめた時に基いて、ベツレヘムとその附近の地方とにいる二歳以下の男の子を、ことごとく殺した。 ヘロデは自分の他にユダヤ人の王が生まれたことに我慢が出来なかった。そして博士たちが王のもとに帰らなかったことを知り怒りが爆発し、ベツレヘム近辺の二歳以下の男の子を全員殺した。 17節 こうして、預言者エレミヤによって言われたことが、成就したのである。 バビロン捕囚の頃の預言者エレミヤの言葉 18節 「叫び泣く大いなる悲しみの声が ラマで聞えた。 ラケルはその子らのためになげいた。 子らがもはやいないので、 慰められることさえ願わなかった」。 これはバビロンに捕らわれて行く途中、エルサレムの北のラマにあるヤコブの妻ラケルの墓の前を通った時、捕囚とされたエフライムとマナセの民を地下から嘆くラケルの声をエレミヤが書いたもの。 「主はこう仰せられる、 「嘆き悲しみ、いたく泣く声がラマで聞える。 ラケルがその子らのために嘆くのである。 子らがもはやいないので、 彼女はその子らのことで慰められるのを願わない」。」(エレミヤ31:5) 19節 さて、ヘロデが死んだのち、見よ、主の使がエジプトにいるヨセフに夢で現れて言った、 ヘロデは紀元4年に悪病にかかりエリコで70歳の生涯を閉じた。 20節 「立って、幼な子とその母を連れて、イスラエルの地に行け。幼な子の命をねらっていた人々は、死んでしまった」。 「命をねらっていた人々」と複数になっているのは、ヘロデの命令によってイエスの命を狙っていた者たちは、ヘロデが死んだ今はいなくなったという意味だろう。 21節 そこでヨセフは立って、幼な子とその母とを連れて、イスラエルの地に帰った。 夢で主の使いに言われたイスラエルに向かった。 22節 しかし、アケラオがその父ヘロデに代ってユダヤを治めていると聞いたので、そこへ行くことを恐れた。そして夢でみ告げを受けたので、ガリラヤの地方に退き、 ヘロデ大王の長男アケラオ(アケラオス)がローマ政府から王の称号を受けないまま、ユダヤ、イドマヤ、サマリヤを治めた。ヘロデの生前に悪口を言ったとうアケラオスは王位継承者から外されていたが、ヘロデが死ぬ数日前に遺言を書き直したため辛うじて為政者となった。ヘロデに似て残忍な人であったので、ヨハネは夢でみ告げを受けガリラヤに行くことにした。 23節 ナザレという町に行って住んだ。これは預言者たちによって、「彼はナザレ人と呼ばれるであろう」と言われたことが、成就するためである。 イエスはガリラヤの町ナザレで成長した。マタイは、イザヤ書11:1で「一つの芽」という意味で使われるヘブライ語がナザレと発音されることから、イエスがナザレ人と呼ばれることを予言の成就とみた。ナザレの意味は「保護」、「青葉の茂った所、あるいは、分かれ枝」などであると言われている。 (2019/01/24)
[1] 乳香 南西アラビア、エチオピア、インド原産のテレピンに似た乳香の木の樹脂で、白色の香料。 イスラエルには礼拝のささげものとして移入された。(レビ2:1-2、6:15、24:7) 祭司に注がれる聖油の4香料の一つ。(出30:34) 遺体の埋葬備に使われた。(ヨハ 19:39,40)
[2] 没薬 芳香性のゴム状の樹脂。芳香が珍重され,衣や寝床,その他の品々に香りを付けるのに用いられた。 聖なるそそぎ油の成分。(出 30:23‐25) 遺体の埋葬に使われた。(ヨハ 19:39,40)
マタイによる福音書略解
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