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マタイによる福音書

1. はじめに

成立と著者
「マタイによる福音書」の正確な成立時期は聖書学者の間でも意見が分かれているが、遅くとも紀元85年ごろまでには成立したと見られている。

この福音書がマタイによるものと言われる理由はいくつかある。
1) 取税人であったマタイは、イエスに招かれて弟子になったユダヤ人クリスチャンだった。
  「さてイエスはそこから進んで行かれ、マタイという人が収税所にすわっているのを見て、「わたしに従ってきなさい」と言われた。すると彼は立ちあがって、イエスに従った。」(口語訳マタイ9:9)

2) 著者が取税人だったため、「取税人」や金銭問題について他の福音書よりも多く触れられている。

3) 律法学者の伝承に通じており、旧約聖書についての知識が深い。
  著者はマタイ27:46に十字架上のイエスが天父に叫んだ言葉をヘブル語としてEli, eli, lema sabachthani? [1] と聞き取り、翻訳しないでそのままギリシャ語に音写し、Ηλι ηλι λεμα σαβαχθανι.( 発音すると「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」)と書いている。このイエスの最後の叫びは、詩編第22編冒頭のエリ・エリ・ラマ・アザブタニ(אלי אלי למה עזבתני) 「わが神、わが神、なにゆえわたしを捨てられるのですか。」の引用と考えられ、ヘブル語が堪能で旧約聖書に詳しかったマタイによる記録とする理由の一つになっている。

4) ヘブル語の他にギリシャ語とアラム語に通じていた。
 福音書が書かれたころにはヘレニズム世界に住むユダヤ人の多くにとって、もっともなじみ深い言葉はギリシャ語であったため、もっぱら書き言葉としてはギリシャ語が使われた。しかし、エルサレムに住むさまざまな文化的背景を持つユダヤ人たちの共通語はアラム語だったと考えられる。 この福音書には、アラム語の"raca" の発音をそのままギリシャ語に音写している箇所がある。これは日常生活でアラム語を話したマタイが主にユダヤ人読者たちに書いたためと思われる。
But I say unto you, That whosoever is angry with his brother without a cause shall be in danger of the judgment: and whosoever shall say to his brother, Raca, shall be in danger of the council: but whosoever shall say, Thou fool, shall be in danger of hell fire.(KJV Matthew 5:22) [2]

マタイによる福音書の目的
旧約聖書の知識があるマタイは、ユダヤ人クリスチャンに対して、旧約聖書(ギリシア語訳・七十人訳)からキリストについて65箇所 [3] も引用しながら、以下を伝えようとした。
1) イエスこそが「モーセと預言者たちによって」予言され、約束されたイスラエルの救い主(キリスト)である。
  「すべてこれらのことが起ったのは、主が預言者によって言われたことの成就するためである。すなわち、
  「見よ、おとめがみごもって男の子を産むであろう。
  その名はインマヌエルと呼ばれるであろう」。
  これは、「神われらと共にいます」という意味である。」(口語訳聖書マタイ1:22-23)

2) イエスは旧約を廃止しに来たのではなく、イエスの生涯をもって旧約を成就するために来たのである。
  「わたしが律法や預言者を廃するためにきた、と思ってはならない。廃するためではなく、成就するためにきたのである。
  よく言っておく。天地が滅び行くまでは、律法の一点、一画もすたることはなく、ことごとく全うされるのである。」(口語訳聖書マタイ5:17-18)

マタイによる福音書の構成
以下の5つの部分で構成される。
1) イエス・キリストの系図と誕生の次第と幼年時代、そして公の生涯の準備(1-4:16)
2) ガリラヤとその周辺での公の活動(4-17:16:20)
3) ガリラヤにおける私的な活動(16:21-18)
4) ユダヤにおける活動(19-25)
5) イエスの死と復活(26-28)

(2019/01/19)


[1] イエスの叫び
同様の叫びがマルコ15:34にもあるが、こちらは当時パレスチナ地方で話されていたアラム語として聞き取り、ギリシャ語で音写し、Ελωι ελωι λεμα σαβαχθανι.( 発音すると「エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ」)と記録した。ペテロの通訳として共に行動したマルコが、ペテロから主イエスの働きを直接目にしたペテロから教えを聞き書いたと考えられる。

[2]  Raca
 日本語に翻訳された聖書では、「能なし」(新改訳)や「愚か者」(口語訳)と訳している。
 「しかし、わたしはあなたがたに言う。兄弟に対して怒る者は、だれでも裁判を受けねばならない。兄弟にむかって愚か者と言う者は、議会に引きわたされるであろう。また、ばか者と言う者は、地獄の火に投げ込まれるであろう。」(口語訳聖書マタイ5:22)

[3]  このうち43箇所は「私は廃止するためでなく、完成するために来た」のような語りの中で引用となっている。


マタイによる福音書略解                                                                                                                
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