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マタイによる福音書1
“イエスの系図”

イエスの系図(1:1-17)
マタイにとってユダヤ人読者達にイエスはキリスト(救い主)であり、ユダヤ民族の父祖であるアブラハムの末裔であり、またイスラエルの王のであるダビデの末裔であることを示すことが何よりも重要であった。

イエスがダビデ王の子孫としてユダの部族に生まれることが予言されていた。
 「つえはユダを離れず、
  立法者のつえはその足の間を離れることなく、
  シロ [1] の来る時までに及ぶであろう。
  もろもろの民は彼に従う。」(創世記 49:10)

 「そのまつりごとと平和とは、増し加わって限りなく、
  ダビデの位に座して、その国を治め、
  今より後、とこしえに公平と正義とをもって
  これを立て、これを保たれる。
  万軍の主の熱心がこれをなされるのである。」(イザヤ 9:7)

 「主は仰せられる、
  見よ、わたしがダビデのために一つの正しい枝を起す日がくる。
  彼は王となって世を治め、栄えて、
  公平と正義を世に行う。
  その日ユダは救を得、
  イスラエルは安らかにおる。
  その名は『主はわれわれの正義』ととなえられる。 」(エレミヤ23:5-6)

マタイの「アブラハムの子であるダビデの子、イエス・キリストの系図。」 (マタイ1:2)は、 「アブラハムはイサクの父であり、イサクはヤコブの父、ヤコブはユダとその兄弟たちとの父、」(マタイ1:2)で始まり、 「ヤコブはマリヤの夫ヨセフの父であった。このマリヤからキリストといわれるイエスがお生れになった。 」(マタイ1:16)で終わっている。 マタイはここでダビデの王統であるヨセフの家系を記し、王座​に​就く​法的​権利​が​ヨセフ​の​養子​イエス​に​ある​こと​を​示し​ている。 (一方ルカはルカによる福音書第3章で、血統によるイエスの家系、すなわち母マリアの家系を示している。)
アブラハムからダビデまでの代は合わせて14代(2-6)、ダビデからバビロンへ移されるまでは14代(7-11)、そして、バビロンへ移されてからキリストまでは14代(12-16)となっているが、第3組は13代しか記されていない。写本の時の書き漏れか。

1節 アブラハムの子であるダビデの子、イエス・キリストの系図。
   「アブラハムの子であるダビデの子、」の子とは子孫の意。アブラハムの子孫であるダビデの子孫のイエス・キリストの系図
2節 アブラハムはイサクの父であり、イサクはヤコブの父、ヤコブはユダとその兄弟たちとの父、
3節 ユダはタマルによるパレスとザラとの父、パレスはエスロンの父、エスロンはアラムの父、
   ユダの子エルの妻でエルの死後、弟オナンの妻になった。オナンの死後実家に帰っているとき「ユダによってタマルの胎からパレスとザラが生まれた」(創38:6-30) この系図にはタマル、ラハブ、ルツ、ウリヤの妻の4人の女性が記されている。ルツは異邦人、他の3人は不義の婦人である。神の御業は人間の障害を超越することを暗示している。
4節 アラムはアミナダブの父、アミナダブはナアソンの父、ナアソンはサルモンの父、
5節 サルモンはラハブによるボアズの父、ボアズはルツによるオベデの父、オベデはエッサイの父、
6節 エッサイはダビデ王の父であった。ダビデはウリヤの妻によるソロモンの父であり、
   ヨラム、ウジヤ、アハズも王だが、ダビデにだけ「王」を付けて、イエスがダビデ王の子孫として生まれることを強調している。
7節 ソロモンはレハベアムの父、レハベアムはアビヤの父、アビヤはアサの父、
8節 アサはヨサパテの父、ヨサパテはヨラムの父、ヨラムはウジヤの父、
   ヨラムとウジヤの間には、アハジヤ、アタリヤ、ヨアシ、アマジヤがいる(1歴3:11-12)が省かれている。
9節 ウジヤはヨタムの父、ヨタムはアハズの父、アハズはヒゼキヤの父、
10節 ヒゼキヤはマナセの父、マナセはアモンの父、アモンはヨシヤの父、
11節 ヨシヤはバビロンへ移されたころ、エコニヤとその兄弟たちとの父となった。
   予言者エレミヤの時代。
12節 バビロンへ移されたのち、エコニヤはサラテルの父となった。サラテルはゾロバベルの父、
13節 ゾロバベルはアビウデの父、アビウデはエリヤキムの父、エリヤキムはアゾルの父、
14節 アゾルはサドクの父、サドクはアキムの父、アキムはエリウデの父、
15節 エリウデはエレアザルの父、エレアザルはマタンの父、マタンはヤコブの父、
16節 ヤコブはマリヤの夫ヨセフの父であった。このマリヤからキリストといわれるイエスがお生れになった。
17節 だから、アブラハムからダビデまでの代は合わせて十四代、ダビデからバビロンへ移されるまでは十四代、そして、バビロンへ移されてからキリストまでは十四代である。

イエスの誕生の次第(1:18-25)
イエスの誕生の次第は、イエスが処女から生まれるという予言者イザヤの予言の成就であった。
 「それゆえ、主はみずから一つのしるしをあなたがたに与えられる。見よ、おとめがみごもって男の子を産む。その名はインマヌエルととなえられる。」(イザヤ 7:14)
18節 イエス・キリストの誕生の次第はこうであった。母マリヤはヨセフと婚約していたが、まだ一緒にならない前に、聖霊によって身重になった。
   神によって創られた最初の男と女がエデンの園から追い出されたときから、女は「苦しんで子を産む」ことになったため、肉において弱き人間が罪に打ち勝つために、神自身が地上に降りる時も、女から生まれる「女のすえ」でなければならなかった。そこで神の創造の御力により、マリヤは「聖霊によって身重になった。」のであった。
   同様の力のあらわれが、み使いにイサクの誕生を約束された89歳のサラに起きている。
  「さてアブラハムとサラとは年がすすみ、老人となり、サラは女の月のものが、すでに止まっていた。 それでサラは心の中で笑って言った、「わたしは衰え、主人もまた老人であるのに、わたしに楽しみなどありえようか」。(創世記18:11-12)
  マリヤが身重になったとき、マリヤとヨセフは婚約していた。ユダヤの婚姻法によると婚約した女性はすでに相手方の妻であった。婚約中の不貞は姦淫であり死罪に当たった。(申命22:23-24)
19節 夫ヨセフは正しい人であったので、彼女のことが公けになることを好まず、ひそかに離縁しようと決心した。
   このような場合、ヨセフには婚約者を法廷に訴え出るか、証人の前で婚約者に離縁状を渡して離縁するかの二つのとるべき道があった。彼は「正しい人」であったので、たとえ婚約者が不貞を犯しても人格的に処理しようとして公になることを避けて後者を選んだのだった。
20節 彼がこのことを思いめぐらしていたとき、主の使が夢に現れて言った、「ダビデの子ヨセフよ、心配しないでマリヤを妻として迎えるがよい。その胎内に宿っているものは聖霊によるのである。
   マリヤの夫ヨセフの他にアビメレ、ヤコブ、ラバン、ヨセフ、パロ、ダニエルなど夢で啓示を受けることは多い。主の使いは、ヨセフにマリヤ身重になったのは不義によったのではなく、神のみこころによるものだから、「妻として迎えるがよい。」とマリアと結婚するように伝える。
21節 彼女は男の子を産むであろう。その名をイエスと名づけなさい。彼は、おのれの民をそのもろもろの罪から救う者となるからである」。
   イエスはヘブル語のヨシュアのギリシャ語名で、「ヤハウェは救いである」の意味がある。ユダヤ人のメシヤ思想ではメシヤの使命は、罪びとの救いよりも審判にあった。しかしイエスは世をさばくためではなく救うために来られた。(ヨハネ3:17、マタイ7:1) イエスの名にはその意味が込められている。
22節 すべてこれらのことが起ったのは、主が預言者によって言われたことの成就するためである。すなわち、
   「主が預言者によって言われたことの成就」をユダヤ人読者に伝えるのがマタイによる福音書の目的であった。
23節 「見よ、おとめがみごもって男の子を産むであろう。
   その名はインマヌエルと呼ばれるであろう」。
   これは、「神われらと共にいます」という意味である。

   シリヤ・エフライム戦争(BC745)中に「神われらと共にいます。」という意味のインマヌエルという名の子供の誕生を予言したイザヤ書からの引用。
   「それゆえ、主はみずから一つのしるしをあなたがたに与えられる。
   見よ、おとめがみごもって男の子を産む。
   その名はインマヌエルととなえられる。」(イザヤ7:14)
   「ユダに流れ入り、あふれみなぎって、首にまで及ぶ。
   インマヌエルよ、その広げた翼はあまねく、あなたの国に満ちわたる」(イザヤ8:8)
   「ともに計れ、しかし、成らない。言葉を出せ、しかし、行われない。
   神がわれわれと共におられるからである。」(イザヤ8:10)
24節 ヨセフは眠りからさめた後に、主の使が命じたとおりに、マリヤを妻に迎えた。
25節 しかし、子が生れるまでは、彼女を知ることはなかった。そして、その子をイエスと名づけた。

(2019/01/19)


[1]  シロには以下の解釈がある。
 1) 将来現れるメシヤの「平和」を意味する名前と解釈する。
 2) ユダ族の主権を継ぐものが現れるまで、ユダ族が他の部族の主導権(つえ)を持ち続ける。
 3) シロという地名と解釈する。「彼(ユダ)がシロに来る時」と読み替える。
   シロという名の町ではなく、カナン全体を平和(シロ)の地と説明する解釈もある。


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