翻訳された聖書による学習
ヨハネによる福音書で言っている聖書とは、現在我々が使っている旧約聖書の元になったもので、当時「律法と預言者と諸書」、「律法と預言者と詩篇」(ルカ24:44)、「律法」(マタイ5:17-18、ヨハネ10:34)と呼ばれていた。イグナティウスの「新約聖書は、旧約聖書の中に隠されており、旧約聖書は、新約聖書の中に現わされている。」という有名なことばがある。 旧約にせよ新約にせよ我々は、信仰の基盤であるイエスと父なる神との関係、イエスの使命を聖書を調べることによって知るということができる。
聖書を調べるといっても、原文(新約は古典ギリシャ語)を読むのは難しいので、翻訳されたものを読むことになる。
多くの聖書翻訳、特に学問的正確さを追求する翻訳は概ね逐語訳を出発点とする。逐語訳は、原語と翻訳語の間で機械的に言葉を変換する方法で、例えば漢文に訓点をつけて日本語に読み下し、日本語の語順に合わせて、かな漢字交じりで書く書き下し文は逐語訳のいい例かもしれない。これは古中国語の美しさを継承したまま、日本語で理解できる非常に優れた発明だ。例えば孟浩然の「春眠不覺曉」は中国語で「ちゅんみんぷーじゅえしゃお」と読むが、日本語でそのまま「春眠(しゅんみん)暁(あかつき)を覚えず」と読む。
書き下し文は漢字を使う中国語と日本語の間だからこそ可能な方法だが、聖書翻訳はそうはいかない。ヘルマン・ヘッセの自伝的小説「車輪の下」で、州試験に合格した主人公のハンスが、神学校が始まる前の夏休みに牧師からルカ伝のギリシャ語のテキストを渡され、「一語一語ていねいに逐語訳をしていった。」そして、「ハンスは、この一語、一句のなかにどんな謎や問題がかくされているか、またこの問題について、遠い昔から何千という学者や思想家や研究者がどんなに骨折ってきたか、ほのかに感じることができた。」のであった。
初期段階の逐語訳の文章には、当然なことだが不自然な部分があるため補正が不可欠になる。その補正を進めた結果が意訳となる。新約聖書は2000年前のパレスチナ周辺を主な舞台としており、時代も社会も異なる背景で書かれた文章には、逐語訳を行った段階では、本来の意味・意図が伝わりにくい部分が残る。読者が正しく理解できるように意味・意図を変えずに言葉を選んで表記する必要がある。意訳にはどうしても翻訳者の解釈による違いが入ってくる。 その上、聖書は断片的な後世付加を含んでおり、最初に書かれた時の姿をそのままにはとどめているわけではない。このため聖書の翻訳は、それらを見出し、吟味・排除あるいは修正しながら、その箇所で読者に何を伝えようとしているのかを把握し、何故そこでそれを語っているかを見出すという困難な作業を伴う。また聖書には論理の飛躍や文脈の不整合(例えばマタイ26:45)という翻訳以前の問題がそこかしこに存在する。ハンスが言っているように、遠い昔から何千という学者や思想家や研究者が膨大な努力を積み重ねてきた成果を読むわけだが、結果的に聖書間には相違があるので気を付けなければならない。一つの聖書だけを読んでいるとその聖書の翻訳者の解釈に慣らされてしまう危険がある。それであるからこそ調べがいがあるというものだ。
1984年版の改訂ルター訳聖書(Die Bibel nach Martin Luther)と
新約聖書ギリシャ語本文(NESTLE-ALAND 第28版: 略称NA28)
いずれもドイツ聖書協会刊
翻訳された聖書による学習
以下、これまでに日本聖書協会の口語訳聖書を中心に考察したことを忘れないように忘備録として残す。口語訳聖書は現在はマイナーな聖書だが、私が行っている教会の標準聖典になっているためこれを出発点としている。これらは、あくまでもアマチュアの個人的見解に過ぎない。そのため時間を経た後変わるかもしれない。
(Aug. 30, 2018)
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