Image11章 13章 Image

ヨハネの黙示録12章

天の戦い、地における獣の増大、地の刈り入れ(12章-14章)

太陽を着て、月を踏み、12の星をかぶる女を見た。(1-6)
闇の子と光の子の宇宙的な争い。悪魔は龍に象徴され、メシヤは幼児に象徴されてる。
神の国と悪魔の国の最後の決戦は、まず天上で行われ、次いで地上に戦いが移される。
1節 また、大いなるしるしが天に現れた。ひとりの女が太陽を着て、足の下に月を踏み、その頭に十二の星の冠をかぶっていた。
  「大いなるしるし」は15:1の「大いなる驚くべきしるし」と同じく、不思議な現象の意だが、単に不可思議ということではなく、深遠な意義を持つ現象であって、地上における事件の原型となるような「しるし」であった。ここの「ひとりの女」は太陽、月、星で囲まれた神話的な婦人の美しさを示している。この婦人は17章の、バビロンすなわちローマを象徴する大淫婦とは異なる。イエスの母マリヤ、選民を象徴するという説があるが、「わたしたちの母」(ガラテヤ4:26)である天上のエルサレム、すなわちキリストの花嫁なる教会をさすというのが妥当だろう。
2節 この女は子を宿しており、産みの苦しみと悩みとのために、泣き叫んでいた。
   この婦人が産もうとしているのは世界の救い主なるメシヤである(詩編2:7)。理想の教会を象徴するこの婦人が、メシヤたるキリストを産むという産みの苦しみの姿をあらわしている。
3節 また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、大きな、赤い龍がいた。それに七つの頭と十の角とがあり、その頭に七つの冠をかぶっていた。
   この婦人に敵対する反キリストの徒を象徴する「赤い龍」が現れる。龍の赤い色はこの龍が凶暴な殺人鬼であることを示している。「七つの頭」は完全な権力を象徴し、「十の角」はダニエル7:7,24 [1] によったものだが「角が十本、頭は七つ」は13:1の獣と同様であり、17:12には「十の角は、十人の王」と述べている(ダニエル7:24)。この赤い龍は悪魔、サタン、老獪なへびのことであるが(12:9)、具体的にはローマ帝政をさしている。「頭に七つの冠をかぶっていた」というのも皇帝をさすものと思われる。
4節 その尾は天の星の三分の一を掃き寄せ、それらを地に投げ落した。龍は子を産もうとしている女の前に立ち、生れたなら、その子を食い尽そうとかまえていた。
   この龍はその尾で「天の星の三分の一を掃き寄せ」とあるように、天上の星の三分の一を支配していた。7節に「天では戦いが起った」とあるが、天上での戦いはすでに始まっていたのである。「その子を食い尽そうと」サタンが幼子キリストを食い尽くそうとしたことがマタイ2:16にヘロデ王の幼児虐殺として書かれている。
5節 女は男の子を産んだが、彼は鉄のつえをもってすべての国民を治めるべき者である。この子は、神のみもとに、その御座のところに、引き上げられた。
   婦人は男の子を産んだが、この子は「鉄のつえをもってすべての国民を治めるべき者」であった(2:27,19:15,詩編2:9)。この子にはサタン以上の力が与えられており、赤い龍に食い尽くされることもなく、やがて無事に天に上っていったのである。
6節 女は荒野へ逃げて行った。そこには、彼女が千二百六十日のあいだ養われるように、神の用意された場所があった。
   地上に残された婦人はそのままにしておかれず、神が用意した荒野に逃げて行った。「千二百六十日」というのは、14節の「一年、二年、また、半年の間」をいっそう正確に述べたもので、この三年半の期間は迫害の期間ではなく、迫害後の休息期間と解釈されている。また、キリスト教徒がエルサレム陥落の災難を避けてベラに逃げたことをさすという解釈もある。

天で戦いが起こった。サタンが地に投げ落とされる(7-12)
7節 さて、天では戦いが起った。ミカエルとその御使たちとが、龍と戦ったのである。龍もその使たちも応戦したが、
   ミカエルはイスラエル民族の守護天使である(ダニエル10:13,21,12:1 [2] )。「龍もその使たち」とあり、サタンもミカエルのようにその部下を持っている。それは天の星の三分の一である霊たちであった。
8節 勝てなかった。そして、もはや天には彼らのおる所がなくなった。
   この守護天使とサタンの激しい戦いについての詳しい様子は何も書かれていない。簡潔に「勝てなかった」とだけ述べられている。その戦いの結果サタンの軍勢は「天には彼らのおる所がなくなった」のである。天は義人の住むところとなり、天上でのサタンの力は奪い取られた。
9節 この巨大な龍、すなわち、悪魔とか、サタンとか呼ばれ、全世界を惑わす年を経たへびは、地に投げ落され、その使たちも、もろともに投げ落された。
   サタンはそれに従う使いたちとともに地上に投げ落とされたが、戦場を地上に移したのだった。しかし地上での戦いは続いているものの、その結果はすでに明らかになっている。いづれにしても、天上での戦いは終了したので、次節以下では天上における賛美が中間的に述べられている。
10節 その時わたしは、大きな声が天でこう言うのを聞いた、
   「今や、われらの神の救と力と国と、
    神のキリストの権威とは、現れた。
    われらの兄弟らを訴える者、
    夜昼われらの神のみまえで彼らを訴える者は、
    投げ落された。

  「救」は勝利の意である(7:10,19:1)。「力」はこの勝利によって現実に示された神の権威であり、「国」は神の主権または統治の意である。「訴える者」はサタンのことで、サタンは二元的に神に対立する独自な存在ではなく、その起源においては神の法廷において人間を神に訴える者との意であった(ゼカリヤ3:1 [3] )。「われらの兄弟ら」とは天上にいる殉教者の群れのことだろう。
11節  兄弟たちは、
    小羊の血と彼らのあかしの言葉とによって、
    彼にうち勝ち、
    死に至るまでもそのいのちを惜しまなかった。

   兄弟たちは殉教の死を遂げたので、表面的には「訴える者」に負けたように見えるが、「小羊の血と彼らのあかしの言葉とによって」サタンに打ち勝つことができたのである。「そのいのちを惜しまなかった」は、マタイ16:25,ヨハネ12:25の キリストの教えを実行した人々である。
12節  それゆえに、天とその中に住む者たちよ、
    大いに喜べ。
    しかし、地と海よ、
    おまえたちはわざわいである。
    悪魔が、自分の時が短いのを知り、
    激しい怒りをもって、
    おまえたちのところに下ってきたからである」。

  「それゆえに」は10節から続く。「天」はヨハネの黙示録中ここだけ複数形になっている。天の戦いは終わったが、地の戦いはこれからであるので、「地と海」はわざわいであると言っている。しかしサタンの時は、たかだか三年半程度の短いものであった。

赤い龍が神の民を迫害する(13-17)
13節 龍は、自分が地上に投げ落されたと知ると、男子を産んだ女を追いかけた。
   地上の婦人はキリストの国を代表する者であるから、サタンたる龍はこの女をなきものにしようとしたのである。「追いかけた」は迫害することの意。
14節 しかし、女は自分の場所である荒野に飛んで行くために、大きなわしの二つの翼を与えられた。そしてそこでへびからのがれて、一年、二年、また、半年の間、養われることになっていた。
   しかしこの婦人には「のがれの町」とでもいうべき「荒野」があった。そこは神が用意された場所であり、またそこでは天来のマナのようなもので養われることになっていた。「わしの二つの翼」は出エジプト19:4にもある。それは昔イスラエル人がエジプト王の難を避けて、モーセの指導の下に荒野に逃げたことから暗示を受けている。
15節 へびは女の後に水を川のように、口から吐き出して、女をおし流そうとした。
   龍は水中の怪獣であり、海坊主とも言うべきもので、レビヤタン(わに、ヨブ9:13)、ベヒモス(カバ、ヨブ40:15)、ラハブ(ヨブ9:13)などと呼ばれているものであるアモス9:3の「へび」もこの類のものであった。この龍は得意の水戦術によって女を「川の流しもの」にしようとしたのである。この川はナイル川のことで、キリストが母マリヤとともにエジプトにのがれたことを暗示しているとみる者もある。
16節 しかし、地は女を助けた。すなわち、地はその口を開いて、龍が口から吐き出した川を飲みほした。
  「地はその口を開いて」と大地そのものがこの婦人の味方になった。いわば水と地との争いであった。この水難はイスラエル人が紅海を渡ったことから暗示されたとみられている。大地が口を開いて人々を飲みつくしたことは、民数16:30,32,26:10,申命11:6などにもある。
17節 龍は、女に対して怒りを発し、女の残りの子ら、すなわち、神の戒めを守り、イエスのあかしを持っている者たちに対して、戦いをいどむために、出て行った。
  龍はこの婦人に対する攻撃に失敗したので、今度は「女の残りの子ら」である個々の信者を個別に撃破するという作戦をとることにしたのである。「残りの子ら」は異邦人の信者またはローマ帝国内の信者一般をさしている。「神の戒めを守」る者は忠実なユダヤ教徒であり得たが、「イエスのあかし」を持たなければ、クリスチャンとなることはできない。
18節 そして、海の砂の上に立った。
   内容的には13章の1節に入るもの。龍は海辺に立って反キリストとにせ預言者の象徴である二匹の獣を招いた。

(2019/12/24)


[1]   ダニエル7:7
  「その後わたしが夜の幻のうちに見た第四の獣は、恐ろしい、ものすごい、非常に強いもので、大きな鉄の歯があり、食らい、かつ、かみ砕いて、その残りを足で踏みつけた。これは、その前に出たすべての獣と違って、十の角を持っていた。」
 ダニエル7:24
  「十の角はこの国から起る十人の王である。
   その後にまたひとりの王が起る。
   彼は先の者と異なり、」

[2]   ダニエル10:13
  「ペルシャの国の君が、二十一日の間わたしの前に立ちふさがったが、天使の長のひとりであるミカエルがきて、わたしを助けたので、わたしは、彼をペルシャの国の君と共に、そこに残しておき、 」
 ダニエル10:21
  「しかしわたしは、まず真理の書にしるされている事を、あなたに告げよう。わたしを助けて、彼らと戦う者は、あなたがたの君ミカエルのほかにはありません。」
 ダニエル12:1
  「その時あなたの民を守っている大いなる君ミカエルが立ちあがります。また国が始まってから、その時にいたるまで、かつてなかったほどの悩みの時があるでしょう。しかし、その時あなたの民は救われます。すなわちあの書に名をしるされた者は皆救われます。」

[3]   ゼカリヤ3:1
  「時に主は大祭司ヨシュアが、主の使の前に立ち、サタンがその右に立って、これを訴えているのをわたしに示された。」

ヨハネの黙示録略解
1章 2章 3章 4章 5章 6章 7章 8章 9章 10章 11章  
13章 14章 15章 16章 17章 18章 19章 20章 21章 22章