3章
5章
伝道の書4章
人間苦(1-16) 権力は人を残忍にする。(1-3) 1節 わたしはまた、日の下に行われるすべてのしいたげを見た。見よ、しえたげられる者の涙を。彼らを慰める者はない。しいたげる者の手には権力がある。しかし彼らを慰める者はいない。 「しいたげる者の手には権力がある」(3:16)。 私は世の中で行われているしいたげを見た。しいたげられている人が涙を流してもだれも手を貸そうとしない。一方でしいたげる者たちはしっかりと手を組んでいる。 2節 それで、わたしはなお生きている生存者よりも、すでに死んだ死者を、さいわいな者と思った。 それで私は、死んだ人のほうが生きている人よりましだと思った。 3節 しかし、この両者よりもさいわいなのは、まだ生れない者で、日の下に行われる悪しきわざを見ない者である。 9:4との矛盾があるが、コヘレトの多感性を表すと解釈する。一番幸福なのは、生まれて来なかった人で、地上の悪を見たことのない人だ。 技芸の熱心は嫉妬心の変形(4) 4節 また、わたしはすべての労苦と、すべての巧みなわざを見たが、これは人が互にねたみあってなすものである。これもまた空であって、風を捕えるようである。 次に私はすべての努力とそれによって成したものを調べたところ、物事を成功させる原動力がねたみであることが分かった。これもまた空しいことで、風を追いかけるようなだ。 コヘレトは正統派的な箴言(ことわざ)を自己流に読み替えて自分の思想の表現に転用している。(5-6) 5節 愚かなる者は手をつかねて、自分の肉を食う。 箴言6:9-11 [1] 「愚かなる者」元来の意味を反語的に用いたコヘレト的賢人。4節のような成功者にならない彼のような愚人は「手をつかねて、自分の肉を食う」嫉妬や競争心に捕らわれることなく、心静かに自分の生活を楽しむ。 6節 片手に物を満たして平穏であるのは、両手に物を満たして労苦し、風を捕えるのにまさる。 しかし、風を捕らえるような空しい労働を続けるより、のんびりその日暮らしをするほうがましだ。箴言15:17,16:19 [2] 二人は一人にまさる? 7-8節で孤独な人間の悲惨を描いたが、ここでは連帯生活のよさを説く。(9-12) 7節 わたしはまた、日の下に空なる事のあるのを見た。 世には空しいことが、もう一つある。 8節 ここに人がある。ひとりであって、仲間もなく、子もなく、兄弟もない。それでも彼の労苦は窮まりなく、その目は富に飽くことがない。また彼は言わない、「わたしはだれのために労するのか、どうして自分を楽しませないのか」と。これもまた空であって、苦しいわざである。 仲間も息子も兄弟もいない一人暮らしの人が、さらに金持ちになろうと目の色を変えて働いている。だれに全財産を残そうというのか、なぜ楽しまないのか。これもまた空しく憂うつなことだ。 9節 ふたりはひとりにまさる。彼らはその労苦によって良い報いを得るからである。 二人が手を組めば、一人の場合よりいい。二人が働くことによっていい結果を得る。 10節 すなわち彼らが倒れる時には、そのひとりがその友を助け起す。しかしひとりであって、その倒れる時、これを助け起す者のない者はわざわいである。 二人なら片方が倒れても、もう一方が起こせる。しかし一人のときに倒れてしまうと、だれにも起こしてもらえず、惨めなことになる。 11節 またふたりが一緒に寝れば暖かである。ひとりだけで、どうして暖かになり得ようか。 また、二人が一緒に寝れば、お互いの体温で暖かくなる。しかし一人では、どうにも暖まることができない。 12節 人がもし、そのひとりを攻め撃ったなら、ふたりで、それに当るであろう。三つよりの綱はたやすくは切れない。 一人では、攻撃を受けると負けてしまう。しかし二人なら、力を合わせて戦い相手に勝つことができる。三つ撚りの網糸は、めったなことでは切れない。 人望のあてにならぬこと。人間の浮動性と残忍性。(13-16) 13節 貧しくて賢いわらべは、老いて愚かで、もはや、いさめをいれることを知らない王にまさる。 貧しくても賢い若者は、どんな忠告も受けつけない、年取った愚かな王よりましだ。 14節 たとい、その王が獄屋から出て、王位についた者であっても、また自分の国に貧しく生れて王位についた者であっても、そうである。 たとえ牢獄から出て王になった若者でも、自分の国に貧しく生まれたけれども王になった若者でもそうである。 15節 わたしは日の下に歩むすべての民が、かのわらべのように王に代って立つのを見た。 こんな若者なら、愚かな王から王位を奪うことになっても、人々は喜んで従うだろう。 16節 すべての民は果てしがない。彼はそのすべての民を導いた。しかし後に来る者は彼を喜ばない。たしかに、これもまた空であって、風を捕えるようである。 こうして彼は、すべての民を導く者になる。しかし彼を知らない次の世代の人々は、彼を追放してしまう。これもまた空しく、風を捕らえようとするようなものである。 (2020/05/26)
[1] 箴言 6:9 なまけ者よ、いつまで寝ているのか、 いつ目をさまして起きるのか。 6:10しばらく眠り、しばらくまどろみ、 手をこまぬいて、またしばらく休む。 6:11それゆえ、貧しさは盗びとのようにあなたに来り、 乏しさは、つわもののようにあなたに来る。
[2] 箴言 15:17野菜を食べて互に愛するのは、 肥えた牛を食べて互に憎むのにまさる。 16:19へりくだって貧しい人々と共におるのは、 高ぶる者と共にいて、獲物を分けるにまさる。