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伝道の書10章

不安と懐疑(7:15-10:1)

1節 死んだはえは、香料を造る者のあぶらを臭くし、少しの愚痴は知恵と誉よりも重い。
   死んだハエが香料を造る油を臭くするように、ほんの少しの失敗が豊かな知恵と名誉をだいなしにする。

ふたたび生活の知恵について(10:2-11:6)
混乱した時代に生きる子弟のための様々な角度から説いた処世の知恵
2節 知者の心は彼を右に向けさせ、愚者の心は左に向けさせる。
   「右に向けさせ」右は力またはささえの意(イザヤ41:10 [1] )。「左」その反対(マタイ25:31-46 [2] )。知恵ある者の心はささえとなり、愚か者の心はわざわいとなる。
3節 愚者は道を行く時、思慮が足りない、自分の愚かなことをすべての人に告げる。
   どこを歩くかで、その人が賢いのか愚かなのかがわかる。
4節 つかさたる者があなたに向かって立腹しても、あなたの所を離れてはならない。温順は大いなるとがを和らげるからである。
   上司にしかられても、持ち場を離れてはいけない。冷静な態度は、相手の不きげんをなだめる。
5節 わたしは日の下に一つの悪のあるのを見た。それはつかさたる者から出るあやまちに似ている。
   世の中に一つの悪が目についた。まことにそれは為政者から出る過誤である。「似ている」は「まことに」と訳せる。「あやまち」は意識せずに犯す過誤。
6節 すなわち愚かなる者が高い地位に置かれ、富める者が卑しい所に座している。
   「富める者」この場合、成り上がり者ではなく、譜代の富と教養を身に着けた貴族で、王のよき助言者。愚か者に大きな権威が与えられているのに、富む者に当然と思える社会的地位さえ与えられていないことがある。
7節 わたしはしもべたる者が馬に乗り、君たる者が奴隷のように徒歩であるくのを見た。
   召使が馬にまたがり、君主が召使のように歩いている姿を見た。
8節 穴を掘る者はみずからこれに陥り、石がきをこわす者は、へびにかまれる。
   井戸を掘ると中に落ち、古い石垣を壊すと蛇にかまれる。8-9は積極的な生活態度はとかく自らを損傷するとして、消極的な生活を勧めたものと思われる(箴言26:27 [3] )。
9節 石を切り出す者はそれがために傷をうけ、木を割る者はそれがために危険にさらされる。
   採石場で働いていると落石で怪我をし、伐採場で木を割るとそれで危険にさらされる。
10節 鉄が鈍くなったとき、人がその刃をみがかなければ、力を多くこれに用いねばならない。しかし、知恵は人を助けてなし遂げさせる。
   斧が鈍くなった時、その刃を研いでおかなければ、それを使う際に力を用いなくてはならない。人の知恵は前もって磨いておけば、いざという時に役に立つ。
11節 へびがもし呪文をかけられる前に、かみつけば、へび使は益がない。
   10節と同様に物事は予め用心が大切。馬が盗まれてから馬小屋に鍵をかけても、もう遅い。
12節 知者の口の言葉は恵みがある、しかし愚者のくちびるはその身を滅ぼす。
   知恵あることばは心地よいが、愚か者のおしゃべりは身を滅ぼす。
13節 愚者の口の言葉の初めは愚痴である、またその言葉の終りは悪い狂気である。
   愚か者の話は前置きがばかげ、結論も常軌を逸している。
14節 愚者は言葉を多くする、しかし人はだれも後に起ることを知らない。だれがその身の後に起る事を告げることができようか。
   愚か者は将来について知っているふりをして、事細かに話して聞かせる。しかし、これから起こることは、だれにもわからない。(8:7)
15節 愚者の労苦はその身を疲れさせる、彼は町にはいる道をさえ知らない。
   愚か者は大した仕事でもないのにうろたえ自分を疲れさせる。ささいなことにも力を出せない。「彼は町にはいる道をさえ知らない」分かりきったことさえ知らぬの意。
16節 あなたの王はわらべであって、その君たちが朝から、ごちそうを食べる国よ、あなたはわざわいだ。
   王が幼く、指導者たちが朝から酔っている国は、とんでもない目に会う。「わらべ」若者、思慮のない者(箴言1:4)、未熟者や我儘者(イザヤ3:4)、しもべ(創世記14:24)
17節 あなたの王は自主の子であって、その君たちが酔うためでなく、力を得るために、適当な時にごちそうを食べる国よ、あなたはさいわいだ。「自主の子」貴族の子。
   王が名門の出で、指導者たちが勤勉を第一と心がけていて、これからの仕事のための英気を養うときにだけ宴会を開いている国はさいわいだ。
18節 怠惰によって屋根は落ち、無精によって家は漏る。
   怠けていると、天井が落ち、手をこまねいていると雨がもる。
19節 食事は笑いのためになされ、酒は命を楽しませる。金銭はすべての事に応じる。
   楽しみは食べること。酒は生を楽しくする。金さえあればなんでも間に合う。「笑い」快楽。
20節 あなたは心のうちでも王をのろってはならない、また寝室でも富める者をのろってはならない。空の鳥はあなたの声を伝え、翼のあるものは事を告げるからである。
   たとえ心の中でも、王をのろってはいけない。金持ちをのろってもいけない。小鳥が彼らに、あなたがどんなことを言ったかを告げるからだ。


(2020/05/26)


[1]  イザヤ
   41:10恐れてはならない、わたしはあなたと共にいる。
     驚いてはならない、わたしはあなたの神である。
     わたしはあなたを強くし、あなたを助け、
     わが勝利の右の手をもって、あなたをささえる。

[2]  マタイ
   25:31 ・・・
   25:41それから、左にいる人々にも言うであろう、『のろわれた者どもよ、わたしを離れて、悪魔とその使たちとのために用意されている永遠の火にはいってしまえ。
   25:46 ・・・

[3]  箴言
   26:27穴を掘る者は自らその中に陥る、
     石をまろばしあげる者の上に、その石はまろびかえる。