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伝道の書11章

ふたたび生活の知恵について(10:2-11:6)
1節 あなたのパンを水の上に投げよ、多くの日の後、あなたはそれを得るからである。
   惜しみなく与えなさい。あなたが与えたものは、あとになって戻って来るからだ。慈善を奨励した句として有名。しかし、他の句と調和せず、伝道の書全体の雰囲気とも一致しない。「投げよ」の原語には「送り出す」という意味もあり、貿易による投資を奨励したものという説もある。
2節 あなたは一つの分を七つまた八つに分けよ、あなたは、どんな災が地に起るかを知らないからだ。
   「七つまた八つ」幾つにもの意(アモス1:3,箴言30:15)。将来、どんな災害が起きるか分からないのだから、全財産をひとつの事業に投資せず、幾つかの事業に分けて投資しなさい。あるいは、持っているものを、人々に分け与えなさい。あとになって災害が起きたとき、あなたも人から助けてもらうことになるからだ。
3節 雲がもし雨で満ちるならば、地にそれを注ぐ、また木がもし南か北に倒れるならば、その木は倒れた所に横たわる。
   雲が垂れこめると雨が降り出し、木が南風や北風で倒されると、そのままそこで朽ち果てる。
4節 風を警戒する者は種をまかない、雲を観測する者は刈ることをしない。
   しかし、風の状態が良くなるまで待っていたら、何一つなすことができない。自然は自らの法則のまま活動するので(3)、天気を気にしていたら何もできない(4)ということ。
5節 あなたは、身ごもった女の胎の中で、どうして霊が骨にはいるかを知らない。そのようにあなたは、すべての事をなされる神のわざを知らない。
   あなたはどのようにしていのちのいぶきが妊婦の胎の中の骨(詩編139:13 [1] )にはいるのかしらない。そのように、どうして神がなさることを人間がわかろうか。
6節 朝のうちに種をまけ、夕まで手を休めてはならない。実るのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良いのであるか、あなたは知らないからである。
   その日その日の最善をつくしなさい。何が努力の実を結ぶのか分からないのだから。もしかしたら、全部うまくいくかもしれないし。

生を楽しめ(11:7-12:8)
人は機会があるうちに生を楽しまなければならない。とりわけ短い青春を空しくするのは愚かである。
7節 光は快いものである。目に太陽を見るのは楽しいことである。
   生きていることは実にすばらしいことだ。4:3,9:4と読み比べよ。
8節 人が多くの年、生きながらえ、そのすべてにおいて自分を楽しませても、暗い日の多くあるべきことを忘れてはならない。すべて、きたらんとする事は皆空である。
   長生きしている人は、ただ現在の生を存分に楽しみなさい。しかし死後の長い生活があることを忘れるな。「暗い日」とは陰府(よみ)すなわち死後を意味する(ヨブ7:9-11 [2] )。ユダヤ人は死後陰府の国に住むと考えた。
9節 若い者よ、あなたの若い時に楽しめ。あなたの若い日にあなたの心を喜ばせよ。あなたの心の道に歩み、あなたの目の見るところに歩め。ただし、そのすべての事のために、神はあなたをさばかれることを知れ。
   若い人よ。若いうちに存分に楽しみなさい。したいことは何でもしなさい。欲しいものは何でも手に入れなさい。しかし、自分のしたことはみな、神の前で申し開きをしなければならないことを覚えておきなさい。原典では、「あなたの若い時に」は年齢について、「あなたの若い日に」は容姿ついて区別している。「あなたの心の道に歩み、あなたの目の見るところに歩め」心も目も欲望を意味する。このような生活方針は古来の戒めに反するものであるが(民数15:39 [3] )、コヘレトはこれを生活の知恵、新しき戒めとして示した上、「そのすべての事のために、神はあなたをさばかれる」と戒める。「そのすべての事のために・・・」は、コヘレトの提唱した新しい戒律を生活したか否かによって、その生涯の価値が定められるということ。
10節 あなたの心から悩みを去り、あなたのからだから痛みを除け。若い時と盛んな時はともに空だからである。
   だから、悲しみと痛みを取り除きなさい。しかし、これから長い人生が待ち受けている若い日は、過ぎ去りやすい。ここの「空」は過ぎ去りやすいということ。


(2020/05/26)


[1]  詩編
  139:13あなたはわが内臓をつくり、
     わが母の胎内でわたしを組み立てられました。

[2]  ヨブ
   7:9雲が消えて、なくなるように、
    陰府に下る者は上がって来ることがない。
   7:10彼は再びその家に帰らず、
    彼の所も、もはや彼を認めない。

[3]  民数
   15:39あなたがたが、そのふさを見て、主のもろもろの戒めを思い起して、それを行い、あなたがたが自分の心と、目の欲に従って、みだらな行いをしないためである。