ルカによる福音書22
イエスの受難
祭司長たちの策略と裏切り(1-6) マタイ26:1-16、マルコ14:1-11 過ぎ越しの祭りになった。イエスの受難が始まる。 祭司長たちは、大祭司カヤパの中庭に集まりイエスを殺す陰謀をめぐらす。 イスカリオテのユダがイエスを裏切ることを彼らに申し出る。 祭りの最中はガリラヤから都に来た者たちが暴動を起こす恐れがあったので、 ユダの申し出を受け入れ、群衆がいない時にイエスを捕らえることにする。 1節 さて、過越といわれている除酵祭が近づいた。 2節 祭司長たちや律法学者たちは、どうかしてイエスを殺そうと計っていた。民衆を恐れていたからである。 3節 そのとき、十二弟子のひとりで、イスカリオテと呼ばれていたユダに、サタンがはいった。 4節 すなわち、彼は祭司長たちや宮守がしらたちのところへ行って、どうしてイエスを彼らに渡そうかと、その方法について協議した。 5節 彼らは喜んで、ユダに金を与える取決めをした。 6節 ユダはそれを承諾した。そして、群衆のいないときにイエスを引き渡そうと、機会をねらっていた。 最後の過ぎ越しの食事の準備(7-13) マタイ26:17-19、マルコ14:12-16 「除酵祭」は「種なしパンの祝い」ともいう。過ぎ越しの祭りの一部で、昔ユダヤ人がエジプトを脱出する際、 パン種を入れずにパンを焼いた故事を記念して七日間種なしパンを食べる。 出エジプトの恵みを感謝し会食するのが習慣であった。 7節 さて、過越の小羊をほふるべき除酵祭の日がきたので、 過ぎ越しの食事に供する小羊は14日の午後に宮でほふられる。 8節 イエスはペテロとヨハネとを使いに出して言われた、「行って、過越の食事ができるように準備をしなさい」。 ほふられた羊の肉を家に持ち帰り食して、出エジプトの神の導きを記念する。 9節 彼らは言った、「どこに準備をしたらよいのですか」。 エルサレムの家は地方からの巡礼者に部屋を貸すことがあった。 10節 イエスは言われた、「市内にはいったら、水がめを持っている男に出会うであろう。その人がはいる家までついて行って、 11節 その家の主人に言いなさい、『弟子たちと一緒に過越の食事をする座敷はどこか、と先生が言っておられます』。 「水がめを持っている男」とは打ち合わせがしてあっただろう。 12節 すると、その主人は席の整えられた二階の広間を見せてくれるから、そこに用意をしなさい」。 「二階の広間」を持っている男はイエスを知っていたひとであろう。 13節 弟子たちは出て行ってみると、イエスが言われたとおりであったので、過越の食事の用意をした。 ペテロとヨハネが行ってみると過ぎ越しの食事の席が整えられていた。 最後の晩餐と聖餐の制定(14-20) マタイ26:20,26-29、マルコ14:17,22-25 14節 時間になったので、イエスは食卓につかれ、使徒たちも共に席についた。 15節 イエスは彼らに言われた、「わたしは苦しみを受ける前に、あなたがたとこの過越の食事をしようと、切に望んでいた。 16節 あなたがたに言って置くが、神の国で過越が成就する時までは、わたしは二度と、この過越の食事をすることはない」。 17節 そして杯を取り、感謝して言われた、「これを取って、互に分けて飲め。 18節 あなたがたに言っておくが、今からのち神の国が来るまでは、わたしはぶどうの実から造ったものを、いっさい飲まない」。 19節 またパンを取り、感謝してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、「これは、あなたがたのために与えるわたしのからだである。わたしを記念するため、このように行いなさい」。 20節 食事ののち、杯も同じ様にして言われた、「この杯は、あなたがたのために流すわたしの血で立てられる新しい契約である。 イエスを裏切るもの(21-23) マタイ26:21-25、マルコ14:18-21 21節 しかし、そこに、わたしを裏切る者が、わたしと一緒に食卓に手を置いている。 22節 人の子は定められたとおりに、去って行く。しかし人の子を裏切るその人は、わざわいである」。 23節 弟子たちは、自分たちのうちのだれが、そんな事をしようとしているのだろうと、互に論じはじめた。 24節 それから、自分たちの中でだれがいちばん偉いだろうかと言って、争論が彼らの間に、起った。 25節 そこでイエスが言われた、「異邦の王たちはその民の上に君臨し、また、権力をふるっている者たちは恩人と呼ばれる。 26節 しかし、あなたがたは、そうであってはならない。かえって、あなたがたの中でいちばん偉い人はいちばん若い者のように、指導する人は仕える者のようになるべきである。 27節 食卓につく人と給仕する者と、どちらが偉いのか。食卓につく人の方ではないか。しかし、わたしはあなたがたの中で、給仕をする者のようにしている。 28節 あなたがたは、わたしの試錬のあいだ、わたしと一緒に最後まで忍んでくれた人たちである。 29節 それで、わたしの父が国の支配をわたしにゆだねてくださったように、わたしもそれをあなたがたにゆだね、 30節 わたしの国で食卓について飲み食いをさせ、また位に座してイスラエルの十二の部族をさばかせるであろう。 31節 シモン、シモン、見よ、サタンはあなたがたを麦のようにふるいにかけることを願って許された。 32節 しかし、わたしはあなたの信仰がなくならないように、あなたのために祈った。それで、あなたが立ち直ったときには、兄弟たちを力づけてやりなさい」。 33節 シモンが言った、「主よ、わたしは獄にでも、また死に至るまでも、あなたとご一緒に行く覚悟です」。 34節 するとイエスが言われた、「ペテロよ、あなたに言っておく。きょう、鶏が鳴くまでに、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」。 35節 そして彼らに言われた、「わたしが財布も袋もくつも持たせずにあなたがたをつかわしたとき、何かこまったことがあったか」。彼らは、「いいえ、何もありませんでした」と答えた。 36節 そこで言われた、「しかし今は、財布のあるものは、それを持って行け。袋も同様に持って行け。また、つるぎのない者は、自分の上着を売って、それを買うがよい。 37節 あなたがたに言うが、『彼は罪人のひとりに数えられた』としるしてあることは、わたしの身に成しとげられねばならない。そうだ、わたしに係わることは成就している」。 38節 弟子たちが言った、「主よ、ごらんなさい、ここにつるぎが二振りございます」。イエスは言われた、「それでよい」。 39節 イエスは出て、いつものようにオリブ山に行かれると、弟子たちも従って行った。 40節 いつもの場所に着いてから、彼らに言われた、「誘惑に陥らないように祈りなさい」。 41節 そしてご自分は、石を投げてとどくほど離れたところへ退き、ひざまずいて、祈って言われた、 42節 「父よ、みこころならば、どうぞ、この杯をわたしから取りのけてください。しかし、わたしの思いではなく、みこころが成るようにしてください」。 43節 そのとき、御使が天からあらわれてイエスを力づけた。 44節 イエスは苦しみもだえて、ますます切に祈られた。そして、その汗が血のしたたりのように地に落ちた。 45節 祈を終えて立ちあがり、弟子たちのところへ行かれると、彼らが悲しみのはて寝入っているのをごらんになって 46節 言われた、「なぜ眠っているのか。誘惑に陥らないように、起きて祈っていなさい」。 47節 イエスがまだそう言っておられるうちに、そこに群衆が現れ、十二弟子のひとりでユダという者が先頭に立って、イエスに接吻しようとして近づいてきた。 48節 そこでイエスは言われた、「ユダ、あなたは接吻をもって人の子を裏切るのか」。 49節 イエスのそばにいた人たちは、事のなりゆきを見て、「主よ、つるぎで切りつけてやりましょうか」と言って、 50節 そのうちのひとりが、祭司長の僕に切りつけ、その右の耳を切り落した。 51節 イエスはこれに対して言われた、「それだけでやめなさい」。そして、その僕の耳に手を触て、おいやしになった。 52節 それから、自分にむかって来る祭司長、宮守がしら、長老たちに対して言われた、「あなたがたは、強盗にむかうように剣や棒を持って出てきたのか。 53節 毎日あなたがたと一緒に宮にいた時には、わたしに手をかけなかった。だが、今はあなたがたの時、また、やみの支配の時である」。 54節 それから人々はイエスを捕え、ひっぱって大祭司の邸宅へつれて行った。ペテロは遠くからついて行った。 55節 人々は中庭のまん中に火をたいて、一緒にすわっていたので、ペテロもその中にすわった。 56節 すると、ある女中が、彼が火のそばにすわっているのを見、彼を見つめて、「この人もイエスと一緒にいました」と言った。 57節 ペテロはそれを打ち消して、「わたしはその人を知らない」と言った。 58節 しばらくして、ほかの人がペテロを見て言った、「あなたもあの仲間のひとりだ」。するとペテロは言った、「いや、それはちがう」。 59節 約一時間たってから、またほかの者が言い張った、「たしかにこの人もイエスと一緒だった。この人もガリラヤ人なのだから」。 60節 ペテロは言った、「あなたの言っていることは、わたしにわからない」。すると、彼がまだ言い終らぬうちに、たちまち、鶏が鳴いた。 61節 主は振りむいてペテロを見つめられた。そのときペテロは、「きょう、鶏が鳴く前に、三度わたしを知らないと言うであろう」と言われた主のお言葉を思い出した。 62節 そして外へ出て、激しく泣いた。 63節 イエスを監視していた人たちは、イエスを嘲弄し、打ちたたき、 64節 目かくしをして、「言いあててみよ。打ったのは、だれか」ときいたりした。 65節 そのほか、いろいろな事を言って、イエスを愚弄した。 66節 夜が明けたとき、人民の長老、祭司長たち、律法学者たちが集まり、イエスを議会に引き出して言った、 67節 「あなたがキリストなら、そう言ってもらいたい」。イエスは言われた、「わたしが言っても、あなたがたは信じないだろう。 68節 また、わたしがたずねても、答えないだろう。 69節 しかし、人の子は今からのち、全能の神の右に座するであろう」。 70節 彼らは言った、「では、あなたは神の子なのか」。イエスは言われた、「あなたがたの言うとおりである」。 71節 すると彼らは言った、「これ以上、なんの証拠がいるか。われわれは直接彼の口から聞いたのだから」。 (2019/01/25)