2019年八幡平市の小さな森の小さな家での生活
3月までは例年よりも暖かかったそうだが、4月に入って三度の積雪があり、寒さに凍える春になった。桜が咲いたのはゴールデンウイークが終わってからだった。
しかし、去年よりも春の訪れが遅かったため、去年はタイミングを逸して見ることができなかったカタクリの花を沢山見ることが出来たし、
リスや野ウサギが、家の窓の下を通り過ぎるのを見たりもした。
八幡平 2020 - 3度目の春と夏、4度目の秋
八幡平 2018 - 春から秋にかけて
八幡平 2017 - はじめての秋
2019年4月11日朝
県民の森の白樺並木 2019年4月27日朝
シデコブシの花 2019年4月27日朝
春は名のみの 4月の雪
春は名のみの 風の寒さや 谷の鶯 歌は思えど 時にあらずと 声も立てず 時にあらずと 声も立てず 春とは名ばかりのように、今年の春は寒かった。 4月10日に八幡平に着いた時は、敷地内の雪が溶けずに残っていたものの、路上の雪はすっかり消え、早春の景色になっていた。 しかし、翌朝、目が覚めたら驚いたことに外は一面の雪景色。 前日見たときは、若芽が芽吹きそうだった木立の枝も雪で白くなっていた。 お隣の話では、3月は、例年に比べかなり暖かかったが、4月に入って寒くなり、その日は2度目の降雪とのこと。 二日後、道路の雪が消えたので、バスで盛岡に出て、冬の間、預かってもらっていた車を引き取って来た。盛岡は良く晴れていて、雪は全く残っていなかった。 その後、まとまった雪は26日から27日の朝にかけても降り、翌日から遊びに来ることになっている娘家族が心配だったが、翌日は暖かくには道路上の溶けてしまった。 標高560m位の所にある家の敷地内の雪が消えたのは、ゴールデンウイークが終わってからだった。 すべての汚れを覆い隠すような白い雪を見ていると心が落ち着く。 昨年通りかかった人たちと話していた時、どの季節が好きかという話題になり、春の明るい緑に包まれる景色が好きという人やこの辺は冬の景色が最高だと言う人がいた。 この地域の雪が降り積もった直後の、雪景色を見たのは初めてだったが、命の息吹を予感させるかのような春の残雪の明るい風景とは異なり、静寂の中にしんと眠るかのような雪景色も素晴らしい。 晴れた日に白く輝く雪を頂いた山の遠景も良いが、雪にふんわり包まれたシデコブシの花、雪の下から頭だけ出しているようなフキノトウ、白樺の木の枝にふんわりのっている様もよい。 偶然家の近くの道路沿いで咲いているカタクリの花を見つけた。春の早い時期に咲くカタクリの花は、開花期間が短くはかないがゆえに余計美しく感じる姿の美しい花だ。 雪が降った後、その花を見に行ったら、傘をしぼめたように閉じてじっと寒さを我慢していた。雪が消えた後は、蝶のように再び元気に開いていた。 雪が降った後、室内にいるときに、屋根に積もった雪が、落雷のような凄い轟音で落ちてくるのに驚ろかされる。 20年位住んでいるお隣さんは、いまだに慣れないそうだ。 この辺りの降雪量は、屋根の雪下ろしするほどではなく、傾斜を大きくしている程度の対策で済むのだが、私の家の屋根の傾斜は普通の住宅のものと変わらないので、昼間雪が溶けても滑り落ちず、夜になって凍ったまま次の日まで残るので、余計雪の落下に驚かされる。 これも初めての経験だった。 (2019/07/22)
県民の森のオオヤマザクラ 2019年5月10日
オオヤマザクラとおとめ座スピカ 2019年5月6日
春の日差しに誘われてキクザキイチゲも一緒に花見 2019年5月10日
春の妖精 カタクリ 2019年5月10日
麗しきは春のそよ風
こちらに来てから2度雪が降り、ゴールデンウイークが終わってから、やっと県民の森の桜が咲いた。去年よりも一週間半ほど遅くれたことになる。この辺の桜は、淡いピンクのオオヤマザクラが多い。 県民の森の海抜は家と同じぐらいで、そこから300から400メートルほど登ったところに白い小さな花が咲くカスミザクラが自生しており、それを森の桜林に植栽している。夫婦桜はオオヤマザクラとカスミザクラのコンビだ。オオヤマザクラは自己主張の強い派手な感じだが、カスミザクラは清楚で控えめな雰囲気がする。 高度が1,000メートル位高い八幡平山頂に至る登山道のミネザクラは6月上旬にピンクの小さな花をつける。何れもヤマザクラなので、赤みがかった葉が、花と一緒に出てくる。
昨年の県民の森は、キクザキイチゲと桜の競演だったが、今年は桜の開花が遅れたことで、キクザキイチゲとともにカタクリの花を一緒に見ることができた。春の早い時期に咲くカタクリの花は、開花期間は2週間程と短く、葉が地上に姿を現す期間は4-5週間程度で、あとは地中で過ごす。このような野の花をスプリング・エフェメラルと呼び、その姿の可憐さから「春の妖精」とも呼ばれるのだそうだ。去年はカタクリの花は四月に終わってしまったので見ることができなかった。寒いことのいい点は、花を長く楽しめることだが、それでも桜はあっという間に散ってしまうので油断ができない。今年は桜の木の下でキクザキイチゲとカタクリを同時に見ることができ幸運だった。桜は同じ地域でも木によって早いものと遅いものがある。夫婦桜は開花してから散るまでが早い。新聞に載った夫婦桜の開花の記事を見た人たちが来た時は大抵散ってしまっている。夜、桜の花と星の写真を撮っていた時、暗闇の中を夫婦桜を見に来た人がいた。大きい方のオオヤマザクラはすっかり散り、小さい方のカスミザクラの花はまばらに残っていた。せっかく遠方から来たからと暗い中しばらく木の下にいたが、やがて月が出て明るくなったので、夜桜を楽しめただろう。月明かりで見る桜はピンクのオオヤマザクラよりも白いカスミザクラが似合っている。
桜の木の下で、お花見をするかのように風に揺れている地面の小さな花を腹ばいになって撮影していると、通りすがりの人が、「それは何の花ですか?」と話しかけてくる。 「これはキクザキイチゲです。菊に似ているでしょ? アネモネの仲間です。」 「植えたものですか?」 「いいえ、この辺にたくさん自生していますよ。雪解けの頃から咲いて、春を告げ、桜が咲き終わる頃にすがたを消します。」 遠くの山で、残雪が白く輝いている明るい日差しの中で咲く、この花は春の草原に似つかわしい。白い花が多いが、薄い青紫のものもある。
5月も半ばを過ぎると野の花も選手交代。 艶やかな春の妖精カタクリや賑やかなキクザキイチゲは姿を消し、陽気なタンポポが草原をうずめる。でもよく見ると小さなスミレがまだ頑張って咲いている。スミレは日本に60種類あるそうで、濃い紫の気品を感じさせる花、薄い藤色の可愛い花、白い豆粒のような花など、ここでも様々な品種のスミレを見ることが出来る。盛岡に行った時、中津川の河原で、花に白地に紫色の斑点があるソバカススミレを見つけた。北米原産とのこと。
マウンテンホテルから県民の森に入ったところで、ワスレナグサ(勿忘草)が咲いているのを見つけた。花言葉は「真実の愛」、「思い出」。 欧米では、友愛や誠実の象徴として親しまれている。栽培種のものよりも、花の付き方がまばらだった。ワスレナグサの名前は、中世ドイツの騎士が、ドナウ川の岸辺に咲くこの花を恋人のため摘もうとして誤って川に飲まれてしまったとき、花を岸になげ、僕を忘れないでという言葉を残したという伝説にもとづいていて、英語名は直訳のforget-me-notだそう。 暑さに弱いので、残念ながら沖縄では見ることがない。
春に芝生が刈り込まれてから、しばらくたった後、元気に伸びだした草の間に小さな漏斗状の上向きの青紫の花が目に付くことがある。やんちゃな子供のようなフデリンドウだ。花は日があたっている時だけ開き、曇天、雨天時は、筆先の形をした蕾状態になって閉じるのでフデリンドウと呼ばれる。これによく似た花にハルリンドウがある。ハルリンドウは根本からロゼット状の根生葉を地表に広げるが、フデリンドウにはそれが無い。
松尾八幡平物産館の隣の桜公園に藤の花を見に行く途中、道路を歩いているキツネに出くわした。キツネはこれまでも、車の前を走って横切っているものや、離れたところからこちらを見ているのに出くわしたことがあるが、すぐ近くを歩いているのを見るのは初めてだった。のんびり歩いていたので車の中から写真を撮った。
まだ雪が残っている頃、ミズバショウを見に行った時、リスが池の横を飛び跳ねながら走っていくのや、家の裏を野ウサギがぴょんぴょん跳ねて行くのを目にしたことがある。野ウサギは夜行性だそうだが、まだ午後の早い時刻だった。冬の間は白い毛が、雪が溶けると黒に抜け替わる。その野ウサギはまだ全部抜け替わらず、濃い灰色の背中と白い腹をしていた。
待ちわびた春のそよ風に吹かれて野山を歩く心弾む爽快さ。 人ばかりではなく小動物達も活発になる。
(2019/07/22)
小岩井農場からの岩手山 2019年5月3日
牛舎と乳牛 桜の木は従業員のため植えたものとのこと 2019年5月3日
カラマツの若芽 2019年5月9日
万法流転のなかに
以前一緒に仕事をした時の中国人の同僚が、ゴールデンウイークに家族を連れて八幡平の家に遊びに来た。雑談中にどういう話の糸口から、その話題になったか忘れたが、元同僚の奥さんが宮沢賢治を好きだということが分かった。
それなら、小岩井農場の園内バスツアーの中に、今年から宮沢賢治コースが出来たから、皆で行こうということになった。
ゴールデンウイークは8時半開園ということで、雫石町目指して7時前に出発したら、7時45分頃に着いてしまった。
これでは早過ぎるだろうと思ったら、さすがにゴールデンウイークの入場券売り場の前は大混雑だった。
他に遊びに行くところはないのかねえと他人事ながら感心したが、広々とした園内は家族連れには格好の遊び場には違いない。
雲一つない五月晴れ、満開のソメイヨシノ、サイロに向かう小道にはミズバショウやスミレが咲いている。
小岩井農場は、賢治のお気に入りの地で、最寄りの駅から5里もあるが、それを厭わず度々訪れている。
そのゆかりの深い農場の中に宮沢賢治の詩が建っている。
すみやかなすみやかな万法流転のなかに
小岩井のきれいな野はらや牧場の標本が
いかにも確かに継起するといふことが
どんなに新鮮な奇蹟だらう
賢治が生前に自費出版した詩集「春と修羅」に収められている長編詩「小岩井農場」のパート1の中からの引用だ。
賢治は、すべてのものが変化する時の流れの中で、小岩井農場の中に野原や牧場の実例が、確実に継続して起きていることを奇跡として見たのだった。
「小岩井農場」はパート1からパート9まであり、行数を数えたら604行あった。
大変長い詩である。
一緒に行った同僚の奥さんは、日本語が非常に堪能で、「どんなに新鮮な奇蹟だらう」を見て、こういう言葉を使えるとは、なんと素晴らしい才能だろうと、いたく感動していた。 同僚はそういった感性には恵まれていないようだ。 奥さんを喜ばすことなら良しとする夫唱婦随ならぬ婦唱夫随で、詩碑をちらっと見ただけでさっさと先へ進む。
宮沢賢治のバスツアーは、国指定重要文化財とともに賢治の小岩井農場との関りや作品を楽しめる。
賢治の童話「狼森と笊森、盗森」の舞台となった小岩井農場の北にある森を初めて見た。
今は賢治が見た当時の姿とかなり変わってしまったそうだが、話の雰囲気は十分に伝わってくる。
道沿いがカラマツ林になっている所があり、ちょうど新緑の若い緑が美しい時期だった。
「小岩井農場」のパート3に「からまつの芽はネクタイピンにほしいくらゐだし」とある。
(2019/08/05)
タニウツギ 2019年6月6日
霧の岩手山林道 2019年7月1日
ヤマアジサイ 2019年7月15日
ヤマボウシ 2019年7月4日
梅雨
「もしあなたがたがわたしの定めに歩み、
わたしの戒めを守って、これを行うならば、
わたしはその季節季節に、雨をあなたがたに与えるであろう。
地は産物を出し、畑の木々は実を結ぶであろう。」
(日本聖書協会口語訳旧約聖書(1955年版)レビ記26:3-4)
季節ごとの雨は、地に産物を出し、畑の木々に実を結ぶためになくてはならない。
しかし昨今の西日本、特に九州の集中豪雨などは、季節ごとの雨の範疇を超えている。
降り過ぎる雨は、神の定めに歩まない人類への警告か。
幸い岩手の梅雨は、涼しすぎる日があったものの適度な慈雨と曇天、時々中休みの晴天があり、水田の稲が綺麗な緑に育っていた。
この季節に大伴家持が雨の日に霍公鳥(ほととぎす)が鳴くのを聞いて詠んだ歌がある。
「卯(う)の花の、過ぎば惜しみか、霍公鳥(ほととぎす)、
雨間(あまま)も置かず、こゆ鳴き渡る」
卯の花は、里に咲く白い花だが、これの仲間で山に咲くタニウツギ(谷空木)をあちこちで見かける。
田植えの時期に花が咲くので「田植え花」としても知られるタニウツギは、薄紅色の誠に可憐な花をつける。
ホトトギスのキョキョキョケキョ(私にはそう聞こえる)という声が、この花が咲き終えるのを惜しんでいるかのように静かな林の中から聞こえてくる。
見通しが悪くなるので、車を運転する人にとっては迷惑だが、梅雨のころの朝の楽しみのひとつに霧がある。 朝の天気予報を見て、濃霧注意報が出ていると、すかさず外に出る。
ゴム長靴を履いて、雪原に代わって草原になったスキー場を歩いていたら、右足の靴の中がぐちゃぐちゃになった。買って3年目のゴム長靴の右片方に裂けめができていた。歩き方に右に負担がかかる癖があるかもしれない。 やはり15年目のトレッキングシューズの右の片方の底が剥がれかかっていた。左は全く異常なし。
足元のぐちゃぐちゃが多少気にかかるけれども、霧の中の草原や林道を歩くと神秘的な感じがしてとても良い。 霧で風景にグラデーションがかかり、いつもは賑やかな小鳥のさえずりが聞こえずしんとしている。
今年はヤマアジサイが色づくのが遅く、7月8日まで待った。去年撮った写真を見ると7月1日には花弁が開いて綺麗に色づいていた。
ヤマアジサイは、ガクアジサイと同じく中央から外側に向かって咲き、縁に装飾花を付ける。ヤマアジサイの装飾花は、水色が多いが、白や薄紅色のものもある。
林道を歩いていて、色違いのものを見つけるのも楽しい。
しかしヤマアジサイの美しさは装飾花よりも中の小さい星型の花が開いた時の宝石を思わせる輝きだろう。花に雨粒が数滴載っていると言うことがない。ヤマアジサイほど梅雨に似合う花はないだろう。近年ヤマアジサイの愛好家が増えているそうだ。
霧で霞む山道を歩いていても、ヤマボウシの星型の白い花が、濃い緑の葉と対比してくっきりと目に入る。
花とは言っているが正確には総苞片で、花は中に淡黄色の球状に集合した部分だ。
ヤマボウシは、秋になると真っ赤な甘い実を付ける。クマも大好きなのだそうだ。去年食べてみたら、苺のような味がした。
花の白、葉の緑、実の赤からなんとなくクリスマスを連想する。
今年はスズランの花を見つけた。
去年はこの辺にあるはずだと探したが見つけることができなかった。
スズランは可愛らしい姿からは想像できないほどの猛毒で、嘔吐、頭痛、心不全、血圧低下、心臓麻痺などの症状を起こすとのこと。花を活けていた花瓶の水を誤飲して死亡した例もあるそうだ。
ドイツ原産の園芸種のスズランは、花茎が葉と同じくらいの高さになるが、日本に自生しているスズランの花茎は葉より短いので、葉に隠れて見つけにくい。
去年はあまり見なかったが、今年は、ホタルブクロをあちこちで見た。この花が咲く頃、ホタルが出てくる。
ヒメボタルを家の庭で見たのは、7月5日だった。お隣の方は6月28日に見たとのこと。
雨上がりの県民の森を歩いていたら、林の中でキノコ狩りをやってる人がいた。雨が降った後、キノコが出ているのではないかと来てみたら、案の定思った通りだったと嬉しそうに話していた。キノコのシーズンは、秋だが気の早い人もいるものた。
梅雨が終わる頃に直売所にブルーベリーが出る。去年味を占めたジャム作りに今年も挑戦した。サンダルフォーのジャムに負けない美味しいものが出来たと自己満足している。夏が終わる頃にはプラムが出るので、ブルーベリージャムとミックスしてみようと思う。
(2019/08/06)
タチギボウシ 2019年8月2日
奥の牧場 2019年8月15日
黒滝 2019年8月15日
夏
今年の梅雨明けは、去年より11日遅い7月31日だった。梅雨が長かった分、夏のまぶしい太陽の光が嬉しい。日本後各地で猛暑が伝えられていたが、私の家は木に囲まれているので、室内は暑い日でも27度位、8月5日11時は23度だった。前の週の日曜日、盛岡の昼は、35度もあった。もしかしたら盛岡は、沖縄よりも暑い日があるかもしれない。
夏の日差しの下、スキー場は草が伸び放題で、夏の野草が好き勝手に咲いている。スキー場へは家から歩いて5分もしないで出ることができるので、山歩きのトレーニング場にしている。何本かあるゲレンデの上の方は、草が腰丈ので伸び、歩くのに苦労するがその分運動量が増すので、いいトレーニングになる。炎天下に標高900mにあるリフトの終点まで、リュックを背負って直登するとかなり息が切れる。家から往復2時間半歩くと、シャツが汗でビチョビョになる。草が伸びていない春は、さらに上に登ると地震観測装置の場所に行けるが、夏は草で道が消えるのでそこまでは進めない。
日当たりがあまりよくない所では、梅雨が長く、気温が低かったせいなのか、アジサイやノリウツギが夏になってもしばらく咲き続けていた。そして、涼しい森の中ではタチギボウシが咲いていた。タチギボウシは日当たりの良い所でも元気に育つ。安比高原や八幡平山頂の湿地帯で多く見かける。
夏のお気に入りの場所の一つに、安比(あっぴ)高原の「奥のまきば」がある。家から夏の空の下を30分ドライブして、ブナの二次林を通ると広く開けた草原に出る。ここも八幡平市内だ。ここにはシラカバや花に囲まれた沼が点在し、清々しい空気が流れている。 夏の青い空、水、緑の木々、これらの組み合わせは、心に潤いを与える。 あなたは泉を谷にわき出させ、 それを山々の間に流れさせ、 野のもろもろの獣に飲ませられる。 野のろばもそのかわきをいやす。 空の鳥もそのほとりに住み、 こずえの間にさえずり歌う。 (日本聖書協会 1955年版口語訳旧約聖書 詩編104:10-12)
奥の牧場の入り口前の空き地に車を置いて、ヤナギラン、タチギボウシ、ミズギクが、夏のまぶしい日差しの中で輝くように咲いている高原を30分ほど歩くと、やがて林に入り、涼しげな水の音を聞きながら進むと黒滝に出る。その名の通り、黒い岩肌を流れ落ちる滝で、水量はそれほど多くはないが幅があり荘厳な感じがする。 (2019/09/15)
春の岩手山の雄姿 2019年4月12日
名残のコマクサ(最盛期は6~7月) 2019年8月26日
今までの険しい道がウソのような外輪山 2019年8月26日
平笠不動避難小屋(右下)を見下ろす 2019年8月26日
岩手山登頂記
8月26日に岩手山(標高2,038m)に登った。 岩手山の登山コースはいくつかあるが、今回は家から車で10分位の焼け走り溶岩流の登山口(標高565m)から登るコースを使った。
登山口前の駐車場に着いたのが丁度の朝3時30分。空を見上げると雲の合間から三日月とオリオン座が綺麗に輝いている。3時35分に登山届を登山口のポストに投函し、ヘッドランプを点けて登山道を歩き始める。 30分程歩いて朝食のおにぎり2個食べる。トレーニングの成果が出たのか意外に歩ける。第二噴出口跡に着いたのが6時。ここまでの標準所要時間が2時間なので、朝食時間を入れるとまずまずの出来だ。だんだん険しくなって行くが、しばらく進むと視界が開けて、通称コマクサロードになる。コマクサは6月から7月が最盛期だが、幸運なことにイワギキョウ(岩桔梗)や他の高山植物と一緒に名残のコマクサが、ちらほら咲いている。しばし写真撮影。火山礫のやせた土地によくぞ咲いているものだ。イワギキョウは、頂上直前の岩の間でも咲いていた。
上坊コースとの分岐点のツルハシ別れに着いたのが7時20分。その直前に登山道に伸びていた木の枝にしこたま頭をぶつけて、あまりの痛さにしゃがみこんだ。足元に注意を払い、木の枝が低く道を覆っているのに気が付かなかったのだ。 下山の時は二度ぶつけた。ツルハシ別れから平笠不動避難小屋(標高1,770m)までの登りが結構険しい。灌木の間の道で、見晴らしが良くないので余計きつく感じる。
平笠不動避難小屋に着いたのが8時45分。第二噴出口跡から平笠不動避難小屋までの標準所要時間は2時間30分ということなので、再びまずまずの出来。平笠不動避難小屋から頂上まで、40分ということになっているが、砂礫で足元が不安定なので、登りきるのに一時間かかった。やっと外輪山のなだらかな道に出てほっと一息。標識のある頂上に9時45分到着。風が吹いてかなり涼しい。それまで長袖のシャツを腕まくりしていたが、雨具のジャケットを着こむ。山頂は最初晴れていたが、やがて雲に囲まれ、時々その隙間から八幡平市内が見えるが、盛岡は見えない。
登り始めてから頂上まで6時間10分かかったわけだが、途中、朝食をとったり、写真を撮ったりしたのと高齢にわか登山者のマイペース歩行なので、標準の5時間10分よりも1時間位余計にかかったことになる。で、我ながらあっぱれ、上々の出来と満足していたが、頂上にいた人たちと話していたら、その時間に頂上に着くには5時30分頃に登り始めるのだそうだ。他の登山客は登り慣れているから標準時間よりもかなり早い。中には走っている人もいる。地元の人で毎週というわけにはいかないが、2週間毎に登っているのだそうだ。背中に水を背負い、ビニールの管で口元に水が来るようにしている。これで登るのも凄いが、駆け降りるだから驚きだ。足場の確保を瞬間的に見分けて確保するという。ほとんどニンジャだ。
総じて登りはまずまずだったが、下山が予想に反して大変だった。途中避難小屋前で、早めの昼食のおにぎりを食べで11時に勇躍出発。案内書によると下りは合計3時間30分なのだが、頂上から途中までの道が火山礫なので、ズルッと滑るだ。結局3回転んだが、転倒しないように一歩一歩踏ん張る結果、太ももが筋肉痛になり、足がつりとても痛い。しばしば休みながら一歩ずつゆっくり歩いたので、登りよりも時間がかかり、登山口に戻ったのが16時45分。全行程13時間10分の山歩きとなった。 トレッキングポールを持って行ったので、筋肉痛の痛みに耐え、岩場を下りる時に助かった。それが無かったら、さらに時間がかかったろう。 大変だっただけに非常に達成感があった。
火山礫の道は、登り慣れた人の場合は、滑りながら下りることが出来るのでかえって楽なのだそうだ。今度は登りのトレーニングだけでなく、砕石が敷かれた道を滑る練習をやろうと思う。 帰る途中に会った大学生らしき人の話では、焼け走り溶岩流のコースは、登山口と頂上の標高差があり、アプローチが長いので、柳沢馬返しのコースに比べて2倍位きついということだ。 柳沢馬返しの登山口は、ちょっと遠くて、家から車で50~60分位かかるが、次はそこからも登ってみたいと思う。 実は46年前の9月、寝袋と二日分の水と食料を持って、網張コースから登ったことがある。中級上級向けコースだが、きつかった記憶がない。若かくて元気だった。
(2019/09/15)
三ツ石山荘から山頂に向かう 2019年10月2日
山頂からは広い視野にミネカエデの紅葉が広がる。正面は岩手山 2019年10月2日
高原のような広々とした視界は気持ちが良い 2019年10月2日
三ツ石山紅葉登山
10月2日に三ツ石山(標高1,466m)に登った。仕事や勉強があるし、近いのでいつでも行けると夏休みの宿題状態のまま、引き伸ばしていたが、一週間後に台風が通過するという予報にやっと決心した。三ツ石山は、岩手で一番早く紅葉し、9月中旬から下旬が見ごろで、ちょっと出遅れたがこれが台風で飛ばされたら勿体ない。
登山口へは、自宅から車で、松川温泉を目指して八幡平樹海ラインを15分程だ。松川荘と登山者用の駐車場標識に従って松川の方に下りて行く。8時前に着いた時、すでに20台以上の車が駐車していた。駐車場にいた二人の登山客に三ツ石山へはどこから登るのか聞いたところ、一緒に行きましょうということで、後ろからついて行くことにした。青森から来た叔父と姪とのことで、車で2時間かけてきたとのこと。叔父さんの方は、GPSの端末を持っている登山のベテランで、登りながら姪子さんにトレッキングポールの使い方や靴紐の結び方など指導していた。 三ツ石山の登山道は、奥産道松川ゲートの登山道との分岐までがきつい。そこを過ぎると起伏が少なく楽になる。やがて湿原に囲まれた三ツ石山荘に着く。三ツ石山荘までが2時間ということになっているが、私の場合、途中の景色を眺めたり、写真を撮ったりするので2時間半かかった。 三ツ石山荘で、休憩をとった後、山頂に向かう。見た目は大したことがなさそうだが、山頂に近づくにしたがいきつくなる。紅葉しているのが山頂付近なので、それを励みに登ることになる。三ツ石山は秋の人気スポットなので、平日にもかかわらず登山客が多い。
三ツ石山荘から、40分程かけて、11時半に山頂に到着。 山頂付近のミネカエデは、見頃を過ぎ所々紅葉から枯葉に変わりかけていたが、雲一つない秋の空の下、秀麗な岩手山の前にミネカエデの赤とオレンジ、クマザサの緑のパッチワークを広げたような見事な風景が展開していた。来年はもう少し早く来よう。
今回は一度も転倒しなかった。8時に登り始めて、15時に登山口に下りてきたので7時間の山行ということになるが、慣れた人だと昼食休憩を含めて、5時間のコースだ。速い人だと2時間で山頂に着くのだそうだ。岩手山の焼け走りコースの時のように火山礫で滑ることはないが、老年にわか登山者とベテラン登山者では、くだる時の速度に歴然とした差がある。普通の人たちは、平地を歩くのと同じ速さでさっさと進むが、私の場合は一歩一歩足場を確認しないと進めない。特に階段は怖い。他の登山者たちは、トントンと階段を降りていく。普通の階段と違い山道の階段は、段差が大きいし、一段一段の段差がまちまちだ。私はトレッキングポールで下の段を確保しながらでないと降りることができない。全然修業が足りないのだ。普通の登山者の場合、下山の所要時間は、登りの所要時間の約3割減だが、私の場合は、登りと下りが同じか、へたすると下りの方が、時間がかかるかもしれない。
(2019/10/25)
小春日和の陽をあびて、秋リンドウの花が開いていた 2019年10月18日
ゴールデンロード 黄金色に輝く秋の林道 2019年10月24日
山の大橋からの眺め 2019年10月25日
ホテルの芝生の上に落ちた葉 2019年10月25日
ツタウルシはアートの天才 2019年10月23日
秋 ゴールデンロード
秋が深まり、県民の森の草むらに赤く染まった楓の葉が所々に落ちるようになった。その草むらの中で、秋リンドウの花が、小春日和の陽を受けて咲いてた。 春リンドウは1つの株から数本の茎が出て、それぞれの茎に数個の小さな花がにぎやかに咲くが、秋リンドウは1つの株から1本の茎が出て、花も1つだけつける。秋リンドウは春リンドウほど小さくないものの、草むらに隠れてしまうミニサイズなので見落としがちだ。それだけに見つけると嬉しい。 八幡平山頂付近など高山の夏から秋にかけて、よくエゾリンドウに出会う。こちらは一本の茎に多数の花が付く。北海道に多く、高山に自生するので、この名で呼ばれる。登山道のわきに咲く紫色の花はよく目立つ。秋リンドウに比べると背も高く派手だ。 エゾリンドウの花弁は全体が紫色だが、秋リンドウは外側の花弁の先が少し薄い桃色がかっていることがあり、紫色が茎に近くなるにつれ薄くなる。 リンドウには、山野に自生しているものを品種改良した園芸種が数多くある。 岩手は園芸種のリンドウではシェアが日本一なのだそうだ。 中でも八幡平市の安代は、オリジナルの品種を持っている一大生産地だ。 エゾリンドウのように高山の厳しい環境でも、元気に育つ丈夫な花なので、県北の不安定な地域の安定作物として合っていたのだろう。
夏、トレーニングの時、草の生い茂るパノラマスキー場のゲレンデを登り、標高700m強の鬼ケ城林道に出て、東から北へ下って岩手山林道に出たことがある。 原生林の樹海の中を歩くわけだが、これが紅葉の頃ならさぞかし美しかろうと秋になるのを楽しみにしていた。 9月に入るとマウンテンホテルは、スキー場の整備に入り、ゲレンデの草刈りが始まる。見晴らしが良くなり、登りやすいはずだが、会社所有の土地だから、整備作業を横に見ながら歩くのはやはり気まずい。 鬼ケ城林道へは、県民の森の案内図によると野鳥観測所の前を通っても入ることができることになっている。しかし、夏に行ってみたら途中の橋が陥没していて、鬼ケ城へは進むことができなかった。この道は雑草が腰の高さまで伸び、歩く人がほとんどいないようなので、復旧することは当分ないだろう。 しかし、県民の森の案内図にない道があった。野鳥観測所に向かわず、県民の森からから岩手山林道に入り、スキー場を目指して進むとゲレンデのすぐ手前に上に登る分岐がある。ゲレンデを直登すれば、鬼ケ城林道に出るのだから、その分岐の林道を登っていけばよさそうだ。ただし一般歩行者通行禁止の林野庁の看板を無視する必要がある。 この通行禁止の文言によると、万一事故に遭っても林野庁としては責任を持たないというものだから、自己責任で通行する分には問題なかろうと、万一のために熊鈴をリックにつけて秋のハイキングを楽しんだ。 夏の間、濃い緑で鬱蒼としていた林が、ブナ、ナラ、トチ、カエデの紅葉で明るく金色に輝いていた。 このあまり人が通らないような道を林の紅葉を楽しみながら、しばらく登っていくと、道が平坦になり、方角的に野鳥観測所に向かっているような気がしてきた。 どう考えても進むにつれてスキー場のゲレンデから離れていく。 さらに進むと上に登る分岐に出くわしたので、道を横切るように大きな石を並べていたのを乗り越えて、登り進んで行くと砂防ダムの前に出た。 そして、雑草に覆われて道が見えなくなったのか、最初から道などなかったのか不明だが、その先の道が消えていたため、引き返すしかなかった。 先ほどの道を横切って石を並べていたのは、通行禁止のつもりだったのだろう。 結果からすると目標としたコースを完遂することができなかったものの、金色に輝くゴールデンロードを歩き、最高に幸福な半日だった。 名高い紅葉の名所を愛でるのも良いが、こういう山歩きが私には合っている。
秋の楽しみの一つは、降り積もった落ち葉の上を歩くことだ。 紅葉して散ったばかりの葉は、地面に落ちても美しい。 やがて枯れて土の色になっても、カサカサ、サクサクと音で楽しませてくれる。 子供が降り積もったばかりの雪の上を歩きたがるように、落ち葉の上を歩くのが好きな大人は私だけではあるまい。樹木によって形や色が変わる家の周辺の道路、様々な種類のカエデやブナやナラの葉が積もる県民の森の散策路、厚いカーペットのような林の中、赤や黄色に燃えるトンネルがどこまでも続く林道、落ち葉の鮮やかな色と緑の芝生が強いコントラストを醸し出すホテルの広い前庭。強い風が吹いた後、ホテルの並木道の下の芝生に枝ごと落ちている枯葉があった。 大げさな言い方をすれば運命を共にした落葉。 旧約聖書の伝道の書4章9節を思い浮かべた。 「ふたりはひとりにまさる。 彼らはその労苦によって良い報いを得るからである。」 日本聖書協会1955年版口語訳 この状態を表す言葉として近いのは「一蓮托生」だろうか。 秋は色に感じ、考え、思いにふける良い季節だ。
そういえば、ヤマボウシの赤く熟した甘い実を楽しみにしていたが、強風で落ちてしまったのだろうか、どの木を見ても全然見当たらなかった。 夏に花が終わった後、青い実を付けているのを写真に撮って、赤くなるのを待っていたのだがはなはだ残念だ。 この実が大好きな熊たちも当てが外れてガッカリしているかもしれない。 春から夏、そして秋を過ごした八幡平を離れ、沖縄に帰る季節になった。
(2019/10/29)